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ガバナンス コーポレート・ガバナンス (岩波新書)

投資やビジネスの世界における昨今のコーポレートガバナンス(企業統治)への意識の高まりを考慮すると、地味にタイムリーな本である。様々な研究成果の紹介を交えている点に特色がある。それほど分量がある本ではないものの、堅い書きぶりの本である。

前半では、依頼人と代理人の間に生じる「エージェンシー問題」の概念から、企業統治において生じやすい問題点である、情報の非対称性、契約の不完全性、経営者が株主の利益を毀損するリスクについて説明している。そして、エンロン事件やワールドコムの事件、2002年のSOX法の成立、インセンティブ・スキームの功罪、市場型のアプローチといった、アメリカ型のガバナンスの特徴が説明されている。

次いで、日本型のガバナンスの変遷や日本の銀行のガバナンスについて解説している。特にメインバンク制度とガバナンスの関係は興味深く読めた。また、バブル崩壊による不良債権問題が深刻化するまで、日本の銀行に対しては、預金者によるモニタリング、規制当局による規律付け、市場の圧力のいずれもが十分機能していなかったことが指摘されている。

同族経営と呼ばれる家族支配型の企業のガバナンスの問題についても、主にアジアの企業に焦点を当てながら論じている。家族支配型は権力を持つ家族支配に有利な利益誘導が働くことがあり、経営が順調なときはまだいいが、経営環境が悪化するととくに外部投資家が結果的に投資資金を搾取されるような形になりやすい。ポール・クルーグマンが「黒ーニー資本主義」と名づけた企業グループと政界の癒着も生じやすい。

終盤では、1997年の商法改正によるストック・オプション制度と持ち株会社制度の解禁、2001年の自社株買い原則自由化をはじめとする規制緩和、2002年の委員会等設置会社制度化、2005年の会社法設立、2007年の金融商品取引法成立といった出来事を挙げながら、日本の伝統的なコーポレートガバナンスの行き詰まりをアメリカ型の仕組みを取り入れることで打開しようとした近年の日本の動きについて論じている。ストックオプション制度が企業収益にプラスの効果をもたらしているとはいえないが、研究開発投資が誘発される効果は見られるという指摘は目を引く。企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)や社会的責任投資(SRI: Socially Responsible Investing)についても言及している。

日本の銀行の株主の変化といった説明は表かグラフを記載すればもっとわかりやすいものになっていたと思われる。また、昨今はガバナンスだけでなく、リスクとコンプライアンスへの意識も高まっており、3つをあわせてGRC(Governance Risk Compliance)といった言い方がされるようにもなってきたが、本書にはそのような視点はなく、あくまでもガバナンス主体の本である。

「コーポレートガバナンスって何?」という人には、多少難しく思われる内容かもしれないが、企業統治のあり方をめぐるトレンドの変遷とその背景についてざっと知るには悪くない本であるように思われる。 コーポレート・ガバナンス (岩波新書) 関連情報